~ 菜 乃 庵 ~

ユルイ生活blog.目指せオトナのsimple life.

私が戻ってきた

去年の春、とある出会いがあった。

思いがけなく、大きな波にさらわれて溺れた。それからは泳ぐことだけに集中して、波に飲み込まれないように気を付けてた。

本来ならその中にいて、五感の全てを研ぎ澄まし、見るモノ聞くモノが輝いて自分中心に動くはずなのに、それはそうじゃなかった。

だんだん何も見えなくなっていた。何も聞こえなくなっていた。何度も水を飲んで苦しくなった。しがみつくことも出来ず、ただただそこで溺れてた。

苦しくて、悲しくて、切なくて、痛くて、泣きたくても泣けなくて。だけどその感覚に溺れていたかった。


どうやったらこの海を泳ぎきれるのか。どうしたら溺れなくてすむのか。どうにかして自分が波を作る側になれないものか。

そんなふうに考えはじめた時だろうか、それともただ時間が経過したせいだったのか、波はだんだんと小さくなり、やがて大波がくることがなくなった。

それはそれで物足りなかったけれど、少しづつ心に平穏が戻った。それでも名残惜しくて、私はまだ時々震動するその水面を捉えようとしていた。

やがて、海はただの湖になり、池になり、沼になり、水たまりになって、目の前から無くなった。あっけなかった。2月の末、風は止んでしまった。

あれは幻だったんだろうか。場所を動いたつもりはなかったのに、私は取り残されてしまったような気がした。


それからしばらくは、乾いた地面を見つめて、足で蹴ってみたり、指で字を書いてみたり。だけどもそこはただの乾いた地面でしかなかった。あぁ終わったんだ。

私は一体何に支配されていたんだろう。4月が終わる。ようやく私が戻ってきた。